取り組み事例
後藤正文・能登材ダイアログ②-能登人
ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文さんと能登の木材を活かす企画の連載「後藤正文・能登材ダイアログ」。この企画では、ギターやMUSIC inn Fujiedaが仕上がる過程だけではなく、企画に携わる皆さまに話を聞きたいと思います。2回目の今回は能登人のお二人の方に、実際に震災を経験して今の想いとこれからをお話いただきました。

ーー最初に自己紹介をお願いできますか?
宮下 宮下杏里と申します。石川県輪島市門前町で生まれました。高校以降14年ぐらい県外に出た後に2020年にUターンしました。現在は一般社団法人NOTOTO、禅の里交流館を起点に町起こし活動を行っています。
江崎 江崎青です。僕も10年ほど県外に出てから能登地域の志賀町に戻って来て青組という会社をしながら、能登の解体現場から出てくる古材のレスキューを行っています。それと、「のと復耕ラボ」という民間のボランティア・センターの一員です。
ーーお2人ともUターンで能登の為に活動されているんですね!古谷さんはお2人とは繋がりがあったんですか??
古谷 江崎さんの古材レスキュー・プロジェクトは、2024年の年末、東京駅前の八重洲口で石川と東京をつなぐシンボルツリー「キンツギツギキ」を作った時にコラボをしたんですが、実際にお会いしたのは、後藤さんが能登に来たときでした。


東京駅前ミッドタウン八重洲(2024年12月)
ーー宮下さんとは?
古谷 ウチの会社にも門前出身の人がいて、縁がある中で支援活動をしていたら出会いました。宮下さんは、街づくりと復興活動を精力的にされてるので、今回、その活動を是非、紹介したいと思って。プロジェクトの相談もしました。
宮下 一番最初は木材でしたね。
古谷 そうですよね。「組手什(くでじゅう)」(参考サイト)っていう木の支援物資を届けたりとか、あと去年、東京と名古屋で開催された「WOOD DESIGN EXPERIENCE」という木のイベントで使われた「つな木」(参考サイト)というものを・・、
宮下 門前総合支所で、
古谷 はい、このイベントで使われていた木材をお届けしました。住民のみなさんが支所に来たときに使う机やイスとして。地元の高校生とかにも来てもらってみんなで作りましたよね。
宮下 そうでしたね。



垂木とクランプを活用した「つな木」の寄贈ワークショップ (2024年8月)
ーー能登ヒバを中心とした国産材で楽器を作り、それをミュージシャンの方に弾いてもらうことで林業の活性化の一助にしようとするATENOTE。このプロジェクトのことを耳にしたとき、どんな印象でした?
宮下 実は能登の山には木がたーくさんあって、普通に見慣れている(笑)。特別って想いはなかったんですよね。その木が机になるとか輪島塗になるっていうのはよく聞くけど、楽器になるというのはまったく想像してなかった。「たしかにギターとかも木なんだなあ」って気が付きました。こういうところからアテ(能登ヒバ)の木が全国に広がると輪島塗の次にくるブランドの一つになっていくのかもしれませんね。
古谷 宮下さんの住む門前には「元祖」と呼ばれる樹齢470年の能登ヒバの木が保存されていたりします。

ーー江崎さんはどうですか?
江崎 僕はもともと建築関係の人間で、住宅メーカーで働いていたこともあるんです。昔は木材って住宅で使われるのがメインだった。それが新建材に変わって需要が少なくなっていく中でATENOTEを見て「あ、こんな木の活用もあるんだ」って思いました。
宮下 能登みたいに人口の少ない地域って昔から、みなさんが必要とするもの中心で作っていたんだと思います。少子高齢化になって余計に。なので「楽器」っていう生活の必需品ではないけど、彩りになるようなものを作るという職人さんは少ないです。
古谷 楽器に使われる木ってある程度決まってたりして、そもそも国産の木をつかうことってあんまり無かったんですよね。その元々使われていた外国の木が少なくなって、国内の木を使ってみようってプロジェクトは少しずつ増えているんですが、ATENOTEでは、その木を切るところから、楽器になった後の展開まで意識して活動しています。そこから奏者の皆さんと御縁が出来たり、音楽イベントをやったり。音楽の力のひとつは、人と人との繋がりが生まれることだと思うので、そうやって町の元気に繋がればいいな、と思っているんです。
ーーレスキューされた木材からギターやスタジオの内装を生み出す、という後藤さんの事例はその発展形とも言えますね。
江崎 古材レスキュー・チームは倒壊して解体せざるをえない家から、まだ使える木をレスキューしています。そこでいちばん大事なのは家主さんの想い。僕らの活動は家主さんから依頼を受けて始まるんですけど、みなさん代々受け継いできた家を自分の代で放棄するのが心苦しい。だから古材として誰かに使ってもらえると嬉しいんです。今回のように後藤正文さんのような方に活用いただけるというのは、家主さんの想いを昇華できるような気がして凄くありがたいなぁと思っています。

古谷 江崎さんは「レスキューされた材の一つ一つに持ち主の顔が浮かぶ」っておっしゃってました。
江崎 70〜80年はたってる家が多いですしね。
古谷 それくらいの築年数のお家は希少な材も多いんですよ。思い出も詰まっているし。今は学校からのレスキューもやってるんですよね
江崎 僕の母校の木造平家の中学。無垢材の使い方が豪華なんです(笑)。
古谷 今回、我々がいるこの空間、禅の里交流館も明治時代の蔵で使われていた部材を利活用して建設されたものですが。
宮下 能登は東京じゃもったいないような木をたくさん使っていたんですよね。
古谷 そんな材料を使った建物がいま、無情にも産業廃棄物として捨てられていく。
ーーそこから材を救い出すのはまさにレスキューですよね。これで使い道さえ広がればもっと助け出せるんでしょうが。
宮下 いまは大工さん自体も少なくなっているんですよね。
江崎 ちょっとづつ全国から古材を使いたい、ってお話はきてるんですが。
古谷 今年中に被災した住宅はすべて解体するんでしたよね。
江崎 という目標のようです。
古谷 使い道ももっと探したいですね。

古谷 後藤さんは「静岡も南海トラフ地震が来るって言われてるから人ごとじゃない。能登の方の経験を受け継いで被害が少なくなるようにしたい」ともおっしゃってました。
宮下 わたしは去年1年間、関東や関西で呼ばれては講演に行ってました。こういう防災について学ぶことって“自分ごと”に落とし込まないとだめなんです。そうでないと能登のことも「ああ大変だねえ」で終わっちゃう。それもよく分かるんです。私自身、能登に地震が起こるまでは他人事だったから。そういうこともあって、講演では「自分の町で地震が起こったらどうですか?」と投げかけるようにしています。「自宅から学校までの間に、どこに避難場所があるか、は携帯がないと分からない」っていう学生さんもいたんですが、「南海トラフとか来たら携帯使えませんよ」って伝えてます。震災って自助。自分で考えないと絶対無理なんです。
古谷 その活動をしつつ、能登でのこれからの展開としては、コインランドリー・カフェを造る計画をクラファンで大成功させてましたね。
宮下 住民の方や商店の店主たちとワークショップしていく中で「コインランドリーがなくなった」「仮設住宅だと洗濯物が乾かない」「働き場所がない」「集える場所が欲しい」といった意見が出たんです。だったらランドリー・カフェがいいんじゃないかと思って。
古谷 ニーズがあって、企画があって、どれにどれだけお金が必要か? 固定概念をもたずに進めていくことが大事かもしれませんね。
宮下 今、能登を離れる人もいて、残っている人も今後の能登がどうなるのか不安になっている方もたくさんいます。門前に居ても楽しい未来が待っていそう!と思えるような町づくりを商店街が先頭をきって頑張っていかないといけないと使命感を持っています。状況は1〜2週間でコロコロ変わるから。常にあたらしい情報を正確に知って行動を起こさないといけないんです。

ーー江崎さんもこれからについて考えることはありますか?
江崎 危機感を持ってます。古材レスキューも解体する家がなくなれば依頼もなくなりますからね。今は集めることに集中してるんですけど、その利用に移行していく段階かな、と思ってます。
古谷 レスキューされた木材は江崎さんの倉庫に所狭しと保管されていて。木材屋としてお手伝いしたいです。それと自分の木材屋のネットワークも駆使して、全国で古材を扱われている方や幡ヶ谷再生大学の事業と支援を行う皆さんをお繋ぎをしています。
ーー実際、レスキュー材についてみなさんの声はどんなかんじなんですか?
江崎 地元の人からすると「こんなもん、もっていくんか?」って言われるんですけどね。でも東京のクリエイターさんとかに見せると「めちゃくちゃいいですね。これを使って何かやりたい」って言ってくれたりする。そういう、能登じゃないところのいろんなクリエイターさんを繋ぐハブになれたら、とも考えてます。物づくりのために人が来てくれるように。
古谷 今回、MUSIC inn Fujiedaで使うのはお寺から出てきた材料です。今回活用する能登の西慶寺も貴重な材料が使われてて。コントロールルームの壁にこの材料を活用して、床には能登ヒバのフローリングを貼ります。利用する皆さんが能登の経験を感じて、次につなげようって思ってもらえたら嬉しいですね。そしてギターは民家の縁側に使われていたケヤキ材。どっちも木材屋の僕からすると、捨てるにはもったいないし、たくさんのメッセージが詰まっていると思います。

ーー最後に、お二人から後藤さんに何かメッセージがありますか??
宮下 是非、出来たギターで能登の曲を作ってください(笑)。それがラジオ体操の曲と同じぐらい能登だけじゃなくて全国に広まるような。
江崎 ぼくも楽しみにしております(笑)。
ーー曲ですか!では、それを願いつつ。いずれにしても、このプロジェクトがたくさんの人に届いて、防災意識が高まって、減災につながると良いですよね。
古谷 ギターもMUSIC inn Fujiedaもそんなシンボルとして、みなさんが災害について考えるキッカケになるとうれしいです。ちなみに後藤さんのギターは、板の木取りが終わって、年内には完成予定です。MUSIC inn Fujiedaの方は今まさに建築中で、近いうちに古材が運びこまれると思います。そこが今日お二人がお話してくれたようなことに繋がっていく空間になることを願って、完成を楽しみにしていきましょう。
(インタビュー/構成 今津 甲)
宮下杏里 (NOTOTO https://nototo.jp/)
江崎青 (古材レスキュー・プロジェクト https://notofukkolabo.net/kozai/)



その他のプロジェクト
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