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ATENOTEは、創業100年以上、北陸随一の取扱い樹種と歴史をもつフルタニランバー株式会社運営の「地域材活性化プロジェクト」です。

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取り組み事例

ホリエアツシ・ギター製作記③

ATENOTEが日本の林業を盛り上げるため、楽器という木の使い手であるミュージシャンへのインタビューを開始して1年あまり。その中からストレイテナーのホリエアツシさんが国産材である能登ヒバでオリジナル・ギターを作ることに賛同、それがこのたびついに完成した。贈呈式が行われたのは、やはりこの取材が縁で繋がったBRAHMAN・OAUのTOSHI-LOWさん関連のスタジオ。ギター製作を請け負ったSago NMGの代表、高山さんがケースからギターを取り出した。

高山 完成形はこういうかんじです。

ホリエ うーわっ、高そう(笑)。

高山 そうなんですよ、めちゃめちゃ高そう(笑)。ホリエさん提案のデザインがすごく良かったんですけどね。

ホリエ 抱きしめてもいいですか(と、ぎゅっと抱きしめる)。

高山 じゃ、早速ですけど音出します?

ホリエ おー、美しい音ですねー。(ひとしきり弾いて)すぐ使えそう。

高山 ふつう新品のギターって音が固かったもしますが、和材って日本の性格もあるのか最初から角が取れてるんですよね。

ーー無事お披露目ができたところでプロジェクトの主催者・古谷さんもまじえ、改めてこの1本ができるまでを振り返っていただきたいと思います。

高山 だったらもう1回、ATENOTEって何? っていうところから話してもらった方がいいんじゃないですか。

古谷 ATENOTEというのは石川県の能登ヒバで楽器を作る事業です。今までわれわれ木材業はメーカーさんに材木を売って終わり。そこをミュージシャンのみなさんまで繋げて、林業の今についても知ってもらいながら発信していこうと思ったんです。で、2020年9月にスタートして今まで30種類ぐらいの楽器を作ってきました。ギター、ベース、ドラムス、和楽器‥。

ホリエ 木琴とかも作ってましたよね。

古谷 はい。昔に比べると楽器用の輸入材が枯渇してきてる今、有り余っている国産材で作るのがサスティナブルだと思うんですよね。ビンテージ楽器を扱うのもいいけど。

高山 たしかにレッド・ツェッペリンに感動して同じ音を出したい! と思っても、それは当時のビンテージ楽器を使うしかないんですよね。いま再現しようと思っても、もう同じ木材はないんだから。だったら新しい木を使った新しい楽器で新しい音楽を作って世界中の人が感動したら、それが今のかっこいい音になると思うんです。日本は国産のいい木、いっぱいあるんだし。

ーーホリエさんも楽器は新しい製品派ですよね?

ホリエ ビンテージ楽器の良さっていうのもあるとは思うんですけど、自分で弾いていくうちに自分の音になっていくという説得力もあると思う。それに僕にとって楽器は、いま欲しい音が出るかどうか、なんですよ。ストレイテナーも最初はベースのいない2人組だったから重たい音の出るギターが必要だった。それがベースの ひなっち が加入したことでそんなに低音の出るギターは必要じゃなくなった。あとはこの曲だったらこれ、みたいに使い分けるかんじですよね。

ーーお三方の方向性がうまく重なりあって今回の形になったんだと感じました。

高山 古谷さんと出会って気づかされたこともありますけどね。「木材を山から切ってきてくれる人がいないと僕らはギター作れないんだ」とか。

ーーどんな出会いだったんですか?

古谷 楽器の展示会でしたよね。

高山 展示会に木材屋さんが出展しているのが珍しくって行ってみたら、ヒバで作った楽器も展示してあった。僕もここ5年ぐらい国産材に注目してたんで色々話して最後に「良かったら尼崎の店まで来てくださいねー」って言ったら、本当に来てくれた(笑)。そこで林業の現状とかについてもいろいろ聞いて、「お役に立てることがあったら」ということで木材を仕入れるようになったんです。

古谷 そこからわりとすぐにホリエさんの取材をできることになって。

ホリエ 最初のインタビューの時は僕も「お役に立てたら」ぐらいのかんじだったんですよ。そしたら早めに「ギター、作りませんか?」って連絡が来て。

古谷 すぐ行動しちゃうタイプなんで(笑)。高山さんにも即連絡しました。

高山 よー繋がったな自分! って思いましたねー(笑)。

古谷 大好きなストレイテナーと。

ホリエ 僕はこういうのって出会いだしチャンスだと思って、大阪で弾き語りライヴに行く予定に合わせて高山さんの工房をたずねたんです。

ーーそこではどんな話を?

ホリエ 初めてヒバ材を使うので作ってみないと分からない、っていう話から。

高山 そこは正直に言いました。もちろんホリエさんのいつもの音に寄せるつもりでいましたが。

ホリエ 工房に知り合いのミュージシャンのモデルが置いてあって、それを弾いたらめちゃいい音だったんです。

高山  知り合いがいる、っていうのは安心しますよね。

ホリエ 家に飾るとかじゃなくステージでガンガン使うんなら今のメインのギターに代わるぐらいのものになったらいいな、とも思いました。でも形にはオリジナリティーが欲しい、色はメインと同じ白でいきたい、とも伝えました。

高山 あとはギターとしてのいろんなルールもあるんで、それは後日、設計図を送ります、ということにして。

古谷 ミュージシャンの方ってすごくこだわりがあって楽器1つ作るのももっと大変かなあ、と思ってたんですが。

ホリエ こだわりの向こう側、行ってたってことですよね(笑)。

古谷 しかも使ったことない材で作るとかチャレンジしてもらって嬉しいです!

高山 チャレンジしてみないと結果は出ないですからねー。

ーープランが決まってのちは?

古谷 月1ぐらいで連絡取り合っていましたね。

ホリエ 途中経過でも「攻めてる方がいいですよね」って言って。

高山 白い塗装はトップだけの方が、っていうのもホリエさんのアイデアでしたからね。

ホリエ ヒバの木目がきれいだからもっと見せましょうよ、って。

(完成したギターのボディ)

ーー最初のインタビューで、実は木が大好きだと判明したホリエさんらしい感覚ですね。

ホリエ 自分がふだん過ごす家とか買うものとか、木があらわになっているものが好きなんでね。今回のギターに関しては全面木目というよりこの絶妙な出具合がおしゃれなんじゃないかと思いましたが。

古谷 木目って日本みたいに四季のある国の木の特徴なんですよ。夏目、冬目って言って、冬は寒くて成長しながらその部分は黒くなる。

ホリエ それが木目の縁の部分?

古谷 はい。で、白いところが夏目。

(能登ヒバの木目)

ーー初めてギターに使ってみて、ヒバという木自体についてはどうでした?

高山 ギターっていうのはボディよりネックが大事なんですよ。で、古谷さんに用意してもらったネック用の(強度を高めるために)圧縮されたヒバがすごい良かったんです。

古谷 圧縮率40パーセントの。

ホリエ そういうの、計算してやってるんですか?

古谷 30、40、50、60パーセントと試して40が一番良さそうだったんです。これは厚さ60ミリぐらいの木が35ミリぐらいになる圧縮なんですけどね。

高山 ボディの方は圧縮してないヒバを使ったんで、ちょっと削って反ってきたらしばらく寝かして、というのを繰り返して「もう大丈夫」ってなるまで3ヶ月ぐらいかかりましたけどね。だからトータルで半年ぐらいかかった計算です。

ーー様々なメーカーにヒバの楽器を作ってもらうことから始まり、次に木や自然、音楽について語っていただくミュージシャンへのインタビューが始まり、今回初めてヒバを使ったミュージシャンのオリジナル・モデルのギターが誕生しました。

古谷 いやー、感無量ですねー。ほんと、これはATENOTEでやりたかったことの一つなんで。次はこれでライヴが行われ新たな音楽が作られていく、という段階が待ってますけどね。ここからがスタート、というか。

高山 新しいギターを作りました、だけじゃね。なぜこういうことをやってるのか? まで伝わらないと。 

ホリエ 僕もお会いして初めて知ったことが沢山あった。木は切って使って再生させて、っていうサイクルが必要なことも含め。

ーーそうしたことを広く伝える入り口としてステージに立つ方が弾いてみせる、というのはすごく有効な気がします。

高山 ほんま、そうですよ。

ホリエ 10数年、ギターを変えなかった僕みたいな人が(笑)。

ーー今回のギター、いつごろ登場しそうですかね?

ホリエ 出来るだけ早く。直近のライヴが来週の東京なんで。

高山 現場に持って行って「今日は違うな」と思ったら無理はしないでくださいね(笑)。

 取材の4日後、ストレイテナーのアルバム・ツアーの一環として東京Zepp Shinjukuでライヴがあった。曲によって4種類ぐらいのギターを使い分けていたホリエさん。そのうちの1本に公約どおり、今回のギターが含まれていた。しかも登場したのが本編後半、ラストの盛り上がりの幕開けを告げる曲。そしてアンコールの最後をしめるナンバーだったのだ! 後者では抜群のタイミングでお客さんから「ギター、かっこいいー」のコールがかかり、ホリエが「作りました」と告げる場面も。

 終演後、本人から聞いたところによるとギター担当スタッフから「これ1本で全曲いけちゃうんじゃない?」とも言われたとのこと。ヒバ材のギターが初めて表舞台に飛び出した瞬間だった。

(インタビュー/構成 今津 甲)

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