取り組み事例
後藤正文・能登材ダイアログ③-EVERTONE
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんと、能登の木材を活かす企画「後藤正文・能登材ダイアログ」。第3回となる今回は製作中のエレキギターのお話を伺いました。
製作を担当するのは「EVERTONE PROJECT(エバートーン・プロジェクト)」。後藤さんからの紹介でした。
EVERTONE PROJECTは、サウンドエンジニア・門垣良則氏を中心に結成されたチームで、「出音(でおと)」――つまり、楽器から出力される信号そのものにフォーカスしたギターやベースの開発を行っています。彼らは膨大な検証と実験を重ね、ギターの分解・改造・再構築を通じてサウンドの本質を再定義。その成果として、ヴィンテージギターの特性や録音現場に最適な音質を解析し、新しいピックアップ(弦の音を拾うマイク)「EVERTONE PICKUP」を生み出しました。

後藤さんが能登材を使って作りたいと語ったのは、自身が初期に愛用していたギブソンの「マローダー(※)」タイプでした。所有のオリジナルはパワー不足で長年使用していませんでしたが、能登材を活用してEVERTONEのピックアップでパワーのある新しいギターが作れないか? と、企画がスタートしました。
※ ギブソン社が1974年から1979年にかけて製造したエレクトリックギター。約5年間という比較的短い期間で生産が終了したギブソンの歴史の中でも生産数の少ない希少なモデルの一つ。

ギターの使用材には、能登ヒバと解体現場からレスキューされた古材のケヤキを組み合わせ、能登復興の応援と同時に”音”と”木”の新たな可能性を探っていくことになりました。
製作自体はEVERTONEチームのWood Custom Guitarsの上田和希氏が担当しました。木材を納品してから約4カ月後の同年9月、完成が近いと連絡が入りました。当初の計画では、同時に3本製作の予定でしたが、新たに追加された1本とマホガニー材で作られた1本の合計5本が作られていました。
完成前にその音を確かめるべく試奏会が開催され、後藤さんも参加。能登ヒバがどのように“音”として息づくのかを体感頂きました。
今回の記事では、その試奏会でのインタビューの様子をお届けします。能登ヒバと古材のギターが新たな物語を奏で始める前段の様子を、ぜひ感じてください。

ーー今回は後藤さんとEVERTONE代表の門垣さん、ピックアップの製作にあたった藤野さんを交えてお話をうかがっていきたいと思います。ちなみに御三方は昔からのお知り合いなんですか?
門垣 まず僕が後藤さんを紹介していただいて。
後藤 最初、門垣さんから(レコーディング用の)機材を買ったりメンテをお願いしたりしてたんです。
門垣 2019年ぐらいからですかねえ。そのあと藤野さんと出会ってEVERTONEを立ち上げたんです。
後藤 そこで藤野さんにはギターのメンテをお願いするようになって。ヴィンテージのレスポールSPの「この音の質感を失わないように新たなピックアップを作って」とか無理難題を聞いていただいて。
藤野 (笑)

ーーギターの木の部分をメンテするというのは普通ですけど、オーダーメイドでピックアップを作ることも出来るんですね。
後藤 僕も楽器はなるべくオリジナルのままで、っていう保守的な考えがあったし、ピックアップって買ってきて当たりはずれでしか選べないものだと思ってました。それが音の立ち上がりとかまでデザインできるというのが驚きで。どういう仕組みかはわからないけど、門垣さんに説明してもらって信頼してお願いしてみたら、やっぱり良かったので考えを改めたんです。
門垣 僕はエンジニアでもありまして、ずっと洋楽の音と邦楽の音の差に興味があったんです。いわゆる欧米人のノリみたいなのって民族性とか色々言われているじゃないですか。野球もサッカーもあらゆるジャンルで日本人のフィジカルは世界に通用しているのに音楽だけ民族性とかあまりにもおかしいなと思っていました。
ーーなるほど、たしかに“民族性”で片づけられるのは不思議ですね。
門垣 それからK-POPが出てきて「同じアジアの国なのにどうして洋楽の音が出るんだ?」って業界人がざわついた感じを感じる瞬間がありました。そこから色々検証して、物理で言う加速度のパラメータが深く関わっている事や、ミキシングのメソッドにたどり着き、その後研究が進むほど空気を介してマイクで音を録音すると加速度を電気信号に変換する事は難しく、後処理が必ず必要になるという現実に直面しました。周波数という視点からエネルギーという側面に視点を変えると「音が録れない」んです。レコーディングエンジニアなのに音が録れない事に気付いてしまい、これはやばいなと思いました。
ーーつまり、録音技術の限界に気づかれたということですね。
門垣 はい。その頃には「洋楽的な音=加速度に相当する部分を後処理した音」と定義していましたし、その先のミキシングの手法も理解して後藤さんにも後に共有させていただきました。散々悩んでプラグイン開発までやり出した時に「もしかしたらピックアップならば運動エネルギーを適切に電気エネルギーに変換して、後処理のいらない洋楽的な音が出せるかもしれない」と考えて、自分が持っていた技術を応用して、さらに藤野さんとも毎日連絡をとりあって研究していったんです。そして、科学的に見ても確実に進歩した、アーティストが望んだ音、正しいタッチを出せるEVERTONE PICKUPが作れるようになりました。
ーー画期的ですね。
門垣 物理学的に考えても応用がきくめちゃくちゃ凄い事だと思うんですが、まだまだ知られていませんね(笑)

ーー能登ヒバと地震で倒壊した家屋からレスキューされたケヤキでギターを、という話がやってきた時はどう感じられました?
門垣 すてきなストーリーだと思いましたね。あとで古谷さんとお会いして話を聞いたら、能登ヒバっていう材にポテンシャルを感じたんです。ピアノにも使われたりしていて。それとヒバの圧縮材にも興味があったんです。最初は強度をあげる技術があるんだと驚きました。サウンドもかなり良かったです。
藤野 僕も能登ヒバの楽器プロジェクトがあるってことは知ってたんですよ。まさかそれを後藤さんから振られるとは思ってなかったですけど(笑)。関わることが出来て感激しています。
ーー実際に能登ヒバを触られて。
藤野 これまでケヤキやヒノキは使ったことあったんですけど、ヒバにも同じ日本的な良い雰囲気なものを感じましたね。太鼓とかも日本の木じゃないですか? それに似た響きを感じて。
ーー加工や製作中はどんな感じでしたか?
藤野 はじめての材だったので割れとかに注意しながら進めていましたが、その特性をつかんだら楽器材として十分活用出来そうだと感じました。特に圧縮材はとても興味深かったです。


ーー後藤さんからのオーダーは?
後藤 そもそもは昔に使っていたギターのピックアップだけ替えてもらおうかと思ってたんですよ。ペケペケして響かない、苦々しい音しかしなかったので。
ーー苦々しい音(笑)。
後藤 最近のメインはレスポール・ジュニアやスペシャルになってました。でもマローダーって形はかっこいいので復活させたいとは思ってたんです。そこへ今回、お話をする中で「能登材でギターを作るんだったら、一から作ってもらった方が絶対に良い」と思った。そこで浮かんだのがEVERTONEだったんです。で、丸っとお願いして。藤野さんには僕が使ってるギターをお預けしてるぐらいなので、絶対アジカンの中で使っていいような音の仕上がりに持っていってくれるだろうな、と思っていました。
藤野 こちらもイラストを描いてみるとかして、今使ってるギターみたいに弾きやすくカッタウェイ(ボディが弾きやすく切り取られたデザイン)を2つ入れるか、も提案しました。
後藤 カッタウェイは入っていたほうが弾きやすいけど、元々に近い形を優先しました。
ーー聞くところによると今回、計5本製作したとか。
藤野 はい。1本だけ基準としてギブソンと同じようにマホガニーで作って、残り4本はネックはヒバの圧縮材にハカランダの指板で共通。ボディはヒバを色んな形で組み合わせました。
ーーレスキュー材のケヤキはどのように?
後藤 表に貼ったり、表と裏に貼ったり、中にはさんだり。
藤野 ボディをすべてケヤキで作ることも考えたんですが、重くなりすぎて。これは後藤さんは絶対に選ばないだろうと選択肢から省きました。結果、能登ヒバ素地の表にケヤキを貼ったもの、能登ヒバ素地の両面にケヤキを貼ったもの、能登ヒバだけ、そしてケヤキを能登ヒバで挟んだもの、ができました。
ーーどうして、1本追加に?
藤野 職人のこだわりですね。この木ならこの仕様も面白いんじゃない?って。ちなみに追加したのはケヤキを能登ヒバでサンドイッチしたモデル。ビグスビー(テールピースのパーツ名)をつけたりしました。

ーーどれもバンドに合う音っていうのは共通してるんですよね?
後藤 はい。基本的にはASIAN KUNG-FU GENERATIONの中で弾くためのギターをお願いしてたので。そこを狙って組み立ててもらいました。
ーー製作側としては何を指針にアジカンの中で使えるように持っていくんですか?
藤野 僕はアジカンの大ファンなんですよ。だからサウンド自体はよくわかっているつもりでした。なので、CDやライヴで聴いたあのサウンドを作れると思っていました。
ーーこの取材の直前に全てを試奏されたようですが?
後藤 レコーディングでも使ってるアンプを用意していただいて、しかもピックアップも慣れ親しんだタイプだったので判断しやすかったです。それぞれ良かったですけどね。キャラが違うだけなので。人によって好みがあると思います。僕は能登ヒバの表にケヤキを貼り付けたものが一番印象的でした。持って帰ってアジカンで育てていくには、これかな、と思っています。
門垣 能登ヒバのみはヴィンテージサウンドっぽい。そこにケヤキが加わるごとに輪郭がはっきりと出ていく感じでした。どれも有りでしたが、僕も客観的に聴いていてやっぱりこれかな、と思いました。
藤野 今回は仮組み状態なんですけどね。本来ならここで組まずにきれいに磨き上げて塗装するので。

ーー未塗装なぶん木の手触りがダイレクトに感じられたんじゃないでしょうか?
後藤 持ったことのない感触がしました。ギブソンやフェンダーはよく知ってるけどこれは「おっ、初めての感覚だ!」って。
藤野 これは基準として作ったマホガニーのとは別の次元。どれも音のキャラクターが立っていてよかったです。それでないと作った意味ないですからね。これからこのギターに合うような楽曲が出来ていくと嬉しいですね。

ーーちなみに、完成予定は?
藤野 12月ですかね。トラブルが無ければ。塗装するとまたサウンドが変化するので、完成したら改めて試していただきたいです。
ーーその折にはまた取材させていただきます!
(インタビュー/構成 今津 甲)
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