ウクレレはすぐ手にとれる
あのサイズだから続けられた
ーーいつもはこのサイトの運営者である古谷さんとアーティストの対談、という形ですが今回はプラスお三方というスタイルです。まずそのへんを説明してもらえますか?
古谷 僕たちは“国産木材ウクレレ・プロジェクト”のメンバーで僕は金沢の木材屋、大澤さんはウクレレと家具を作っている会社の方、林さんは自社ブランドも持つウクレレ専門店、猪古さんは‥。
猪古 30年間島村楽器に勤めたあと、今はキッチンカーみたいのでウクレレの移動販売をしています。フェスとかで。
つじ へーっ!
林 (目の前に並べられたウクレレの1つを指して)こちらがつじさんのモデルですね。サウンド・ホールがクローバーになっている2代目。
古谷 あれは大澤さんが作ったんですか?
大澤 はい、ウチの会社で作らせていただきました。
ーーつまりウクレレに関する様々なプロが揃っての座談、ということになりますね。そして、つじさんに関してはみなさんよくご存知だと思うんですが、改めてウクレレを手にしたきっかけから教えていただけますか? ウィキとかでは「手が小さかったから」って書いてありますが。
つじ 本当にそうなんです。家には母が使っていたクラシック・ギターがあって、弾き語りをしたかった私はまずそれを引っ張り出して弾こうとしたんです。でもぜんぜん指が届かなくって。それで楽器屋さんに行ったらそこにウクレレがあった。手にとったらピッタリだったんです。
ーーじゃ、もし手が大きかったら?
つじ ウクレレは持ってなかったと思います(笑)。これまでズッとウクレレを弾いてこれたのも、それがちっちゃな楽器だったからだとも思うんですけどね。すぐに手にとれて、どこにでも持っていけるから。
猪古 ウクレレってペットみたい。抱きしめたくなる(笑)。ギターと違ってたまにしか弾かなくても罪悪感がない。
つじ(笑)。
猪古 ウクレレ教室とか行くとそうですもん。そこでしか弾かない人もたくさんいる(笑)。それっくらいの距離感もいいなって思うんです。
ーープロの方にとっては、コンパクトな楽器ってツアーとかでも有り難そうですね。
つじ ほんと、助かってます(笑)。今日もツアー用のケースに入れてきましたが。
ーーと言ってもバイオリンのケースぐらいのかんじで。
古谷 ちなみにその中にはどんなウクレレが?
つじ デビューしたときからズッと使っているハワイのケリーというメーカーのものです(と一同に中身を見せる)。これはダメになるまで使う、ぐらいの気持ちでいるものです。
林 ケリーさんはこの間のウクレレ・ピクニックにも来てました。「おーっ!」って声かけてくれて。まだ若い人なんですよね。
古谷 お家にはウクレレ、沢山あるんですか?
つじ 頂いたものとかもありますが、そこまでいっぱいとかじゃないです。
猪古 僕とかついつい買って妻にどう隠そうか、ってかんじなんですけどねー(笑)。木が違うと音色も違うんで。たとえば方言みたいに東北の杉と南の方の杉で音色が違ったらおもしろくないですか?
つじ あー、たしかに!
古谷 寒い地域ほど育つのが遅くって、年輪も詰まって音は硬くなるんですね。それが九州とかだと生育が早くて年輪が広い。だから音は丸っこくなるんじゃないかな?
大澤 1本の材でも真ん中と外では年輪の幅は違いますけどね。だからどの部分を楽器のどこに使うかでも音は違ってくるんです。
つじ もう、すごい初歩的な質問なんですけど、材料の木はもともと山で?
古谷 そうです、そうです。日本は国土の70パーセントが森林で、なおかつ切り手の高齢化や需要の少なさで森林面積は増えている。そういうこともあって単価の高い楽器用として国産木材を使うプロジェクトをやってるんですけどね。今回お持ちしたウクレレの木も日本の山から切り出します。最初は丸太の状態なんで、それを板状に製材して大澤さんとかにお渡しして。
つじ ボディの丸みとかはどうやるんですか?
大澤 熱と水分で加工します
木のにおいも好きです
つじ (能登ヒバで作られたウクレレを手にとり、素早くチューニングして弾く)あ、軽やかな音ですね! これを作るにはどれっくらいの量の木がいるんですか?
大澤 古谷さんからもらったのは長さ1メートル、幅10センチぐらいの木材です。ウクレレはネックに一番長い木が必要なんですけど、それでも40センチぐらいあれば足ります。ボディも薄いんで思ってるより少ない量の木で作れますね。
つじ(苗場の杉で作られたウクレレを手にとる)これはヒバより柔らかい音ですね。
猪古 それはフジロックの会場の近くで切った杉で出来てます。
古谷 今年フジロックに出店したときに展示して。
つじ みなさんビックリされたでしょうね。(さらにヒノキで出来たウクレレを手にとる)。
大澤 それはコロナで木が入ってこなくなった時、群馬の方が「地元の木で作れないか?」って言われて作った国産材ウクレレ第1号なんです。
つじ どっちかっていうと杉のウクレレに近いかんじですね(と言ってもう一度ヒバ材のものを弾く)。やっぱりこれが一番軽やかな気がする。明るい音で。
ーー音が違うと湧いてくる曲も違うかもしれませんね。
つじ ああ、それはあると思います。
猪古 もともとウクレレって、19世紀にヨーロッパからハワイに渡ったブラギーノって楽器が元になってるんです。それを地元ハワイの木で作ったものがウクレレと呼ばれ、そこから素敵なハワイアン・ソングが一杯生まれた。同じように日本の木で作ったら新たな音楽が生まれるかもしれませんね。実際、僕が島村楽器に入社した30年前はみんなハワイアンしか弾いてなかった。だけどつじさんの登場とかで今や楽譜売り場もポップスやジャズが中心になってます。
林 日本も最初はハワイアン・ブームでウクレレが売れたかんじでしたからね。それが’00年前後に高木ブーさんで注目を集めて、つじさんが出て‥。で、そろそろ楽器としても日本発信になっていいと思うんです。これまでウクレレの材として使われてきたハワイアン・コアの値段がどんどん上がって、遠からずワシントン条約に引っかかって伐採禁止になると思うんで。
ーーギターに使われてきた材が次々に資源の枯渇から伐採禁止になってきているのと同じ状況ですね。
猪古 世界的にみてもハワイアン・コアを使った日本製のウクレレって人気なんですよ。演奏面でもハワイのウクレレ・コンテストではよく日本人が賞をとっている。だったら国産材を使ったウクレレがあってもいいんじゃないですかね?
古谷 猪古さんは島村楽器にいるときから“日本ウクレレ”というブランドを立ち上げていましたよね。
猪古 そこは日本ワインと国産ワインの差みたいなものでね。フランスから輸入した原酒を元に作ったものを国産ワイン、日本のブドウから作ったものを日本ワインって言うんです。それと同じで国産材のウクレレだから日本ウクレレ。
古谷 京都にも北山杉というブランドがありますよね?
つじ 昔、それのCMも流れていました。男の人が木をカンカン切っている姿が映って。たぶん京都が大事にしてる文化の1つだと思います。私自身、木自体のにおいもすごく好きなんですけどね。
ーーというと?
つじ 父が家具屋をやっていたし、兄は木を使った戸建てを中心に建築をやっている。そのせいもあるんですかね? 私が実家も見えるところに木の柱が立っていたりして。
古谷 つじさんに現場に行ってもらって「これがいい」っていう木でウクレレを作ることも可能なんですよ。
つじ えー、いいんですか!?
林 木が決まればこのメンバー、すぐ動けると思うんで。
古谷 ミュージシャンを山に連れてくってまだありませんが。
猪古 山に連れてく、ってなんか危ないかんじ(笑)。でも、僕も見学に行ったことあるんですよ。それまでは「国産材で作ればいいんじゃね」ぐらいに思ってたのが現場を見て変わりました。「うわ、こんなに色んな手間をかけてるんだ」ってことを知ってこれは応援したい、って。
古谷 つじさんがこれからウクレレに求めたいことってありますか?
つじ 息子が小学校一年生なんですが、小学校の教室ごとにウクレレが1本あるといいですねー。
大澤 地元の群馬ではそれ、始めてます。授業のときだけウチからの貸し出しですけど。
林 東京の小学校でもいま11校ぐらい。あとは保育園。保育園の先生が公園に持ち込める楽器としてはウクレレが最適なんで。
つじ そうやって身近で音楽を始めれられるといいですねえ。
古谷 息子さんはもう弾いてるんですか?
つじ いやー、まだあんまり興味がなくて。ウクレレの天才少年とかいっぱいるから「どうやったらああなるのかなー」ってすごい思います(笑)。いろんな人が手に取りやすい楽器やからこそ手に取ってみてほしいですけどね。
(インタビュー/構成 今津 甲)
つじあやの https://tsujiayano.com/
キワヤ商会(メーカー) https://www.kiwayasbest.com/
三ツ葉楽器(製造) http://www.mituba-kk.com/
イコレレ(販売) https://note.com/iko15ico
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