子供の頃から木の絵を描いていた
ビンテージだからいいわけじゃない
ーー今回は事前にヒバ材を使ったSingular G1_Noto-Hiba/ATENOTE modelを試奏していただきました。しかも通常のライヴのセッティングで。いかがだったでしょうか?
ホリエ まず持ったかんじが軽くてコンパクトでしたね。あとネックがすごく握りやすくって。
ーー音の方はどうでした? エレキなので電気系統の影響も大きいとは思いますが。
ホリエ すごく繊細な音でした。歪まそうとしても音がつぶれず印象があんまり変わらない。爪弾くようなかんじにも向いてるのかな? と思いました。
ーールックスの方は?
ホリエ まあとにかくオシャレですよね。木目とかも1点物感があってそこも魅力かなあ、と。嗜好品の域です(笑)。
古谷 一方でいろんなメーカーさんが、手に取りやすいグレードのものも作り始めてるんです。
ーー輸入材不足のおり、いろんな価格帯で国産材楽器を普及させていくのも大事ですね。
古谷 フェンダーも、定番のアッシュ材は2020年で一部モデルに使われなくなりましたからね。全米でアッシュしか食べない虫が大発生したせいで。もうそのへんの材を使ったギターはだんだんビンテージ化していくんじゃないですかね。
ホリエ 僕、ビンテージとかって無視してますけどね(笑)。そこにこだわりはない。
ーー愛用のエレキに新品で買ったものが多いのはそういった理由で?
ホリエ うん。古いからいいってもんじゃないですからねー。それより「自分の好きな音が鳴るかどうか?」なんです。そこが一番大事。「こういうタイプのギターが欲しい」と思って楽器屋まわりをした時、試奏しながら「これ、いいなあ」ってひとりごと言っててもお店の人は「ふーん、それなんだあ?」って顔したりしてますが(笑)。
ーー楽器店ってどこも、お客さんに勧めたい鉄板のギター、ありますからね。ホリエさんの場合、そこじゃないことが多いという。もうビンテージっていうだけでお勧め、っていうことも多いですが。
古谷 ビンテージばっかりになると新たな楽器を作る職人さんが減ることにもなるから、そういう意味でも楽器は作り続けないとだめなんですけどね。
ホリエ ですよねー。木材にしても新しいものを見つけていかないと。
古谷 だから地元のヒバって木で楽器を作るATENOTEっていうプロジェクトを始めたんです。今まではヒバって楽器には向かないって思われてたんですが。
ホリエ じゃ、何に使われてたんですか?
古谷 水に強いって所から住宅の土台とか、水回りに。あとはアロマ効果を活かして内装材に使ったり。
ホリエ 建材メインだったんですね。
古谷 はい。そこをなんとか楽器にならないものかと思って色んなメーカーさんにお願いして、この2~3年で20種類ぐらいの楽器を作ってもらったんです。
ホリエ 木材が音にどう作用するのか? 詳しいことは分からないですけど、もともとスピーカーとかも木製なんだし「いいんだろうな」とは思います。個人的には木の物自体が好きなんだけど。
ーーあ、そうなんですね?
ホリエ たとえば木の家具に囲まれていたい、とか。
古谷 家自体はどうですか?
ホリエ 今は借家ですけど、もし家を持てたら天井は木にしたいですね。
ーーここ数年、白壁でも天井は木っていうデザイン、増えてるし。
ホリエ そうそう! あれが好きなんです。
古谷 もし借家でも可能なら天井用の木材、ご提供したいです。
ホリエ オーッ(笑)。
ーー木って昔から好きだったんですか?
ホリエ 子供のころから絵が好きで、ドラゴンボールとか模写してたんですよ。一方で木の絵とか古い家の絵とかもよく描いていて。木って節があったり、枝があったり、
ーー様々な情報の塊ですよね。種類によってはそれが四季によって変化したりするし。
ホリエ うん。たぶんそこが感覚的に好きだったんだと思います。美的に好き、というか。
ーー地元の環境とかはどうだったんですか?
ホリエ 別に自然に囲まれて、とかじゃなかったです。ただ父親が山が好きだったんで、よく連れて行ってもらいました。木や花の名前を教えてもらったりしながら。父親は未だに山は行ってますけどね。
ーーヒナッチ(ベースの日向秀和)の先輩だ。
ホリエ ヒナッチが山の話をすると「ああ」ってかんじで全部わかってます(笑)。
「この木は僕が切りました」とかね(笑)
古谷 ホリエさんは環境系のイベントにも積極的に出ているような印象があるんですが。
ホリエ そこは特に意識してないんです。ただ、僕らの世代って東日本大震災以降、地域のための活動に力を入れてる人たちが多いんですよ。音楽イベントを通じてその土地のことを知る、ただの町起こしとかじゃなく人や土地との繋がりを大事にする、みたいな。その姿勢には魅力を感じますね。
ーー土地との繋がり、ということで言えば震災以前からツアーで全国をまわられてますが。
ホリエ そこは単純に楽しいですよね。こういう仕事をしてないとここまで色んな所にはいけないと思うし。
ーーもう全都道府県行ってます?
ホリエ はい。でもそれぞれの県の中にもいろんな街があるわけで、それぞれに魅力がある。その場で歴史を教えてもらうと「ああ、だからこういう街並みになってるんだ」と分かったり。
古谷 木も県によって違うものが生えてたりするんですけどね。
ホリエ あー、そういうのもありますね。
ーーそれぞれの地元の木を使ったご当地ギターっていうのがあってもいい、って言ってた方もいた。
ホリエ たしかに(笑)。食料もそうだけど国産、自前であるにこしたことないですからね。
ーー特に国産材とか余ってるわけだし。
ホリエ そうか、余ってるんですか?
古谷 人手不足で切る人が少ないんで。それに日本は山国。森まで行くのにアップダウンもすごいから、道を作るのも大変なんです。その道を作るには切った木がお金にならないとだめで、お金になるにはもっと木の使い道が増えないといけない。だから使い道の一つとして単価の高い楽器を提案してるんです。
ホリエ 素晴らしい! ちなみに切った木は乾燥させてから楽器にするんですよね?
古谷 はい。半年とかかけて。その乾燥の仕方がすごい重要なんです。寸法安定性(切ったあとの膨張収縮の度合い)を良くするためにも。
ーー楽器になったのちも木の乾燥は進み、音も変わっていきますよね?
ホリエ エレキはエフェクター変えたりアンプ変えたりして使ってるんで目立たない。でもアコギ(アコースティック・ギター)は明らかに違ってきます。それも弾いてくうちに音が悪くなっていくってことはない。大体どんどん自分の好みの音になっていくという。
ーーヘー!
ホリエ いまメインで弾いてるアコギは同じモデルの2代目なんですけどね。1代目は事故でぶっ壊れちゃって。で、同じ年代で同じ材の同じモデルを買ったら、当初は初代の方が若干音が良かった。でも今や初代よりも長いこと使ってるんで音も超えた感があるんです。あと、ふだん使ってないアコギでもたまに引っ張りだして弾くと「あれ? 前より音良くなってない?」ということも。これも乾燥の影響かもしれないですね。エレキは常に電気を通した方がいい、っていうけど。
ーー電気回路はアンプとかもふくめ通電が大事ですからね。
ホリエ でもアコギは弾かなくても良くなる(笑)。ま、それをライヴで使うとなるとその場所によってぜんぜん音が違ってきますけどね。ホールの広さやそれこそ内装材とかで。
古谷 場所によって湿度も違いますしね。それで木の鳴り方もちがってくる。
ーーそのへんスタジオなんかはどうなんですか?
ホリエ スタジオの内装も基本は木ですよね。僕らのレコーディング・エンジニアは自宅の中にスタジオを作ってる。家自体は普通の建材なんだけど、その中にあるスタジオ部分だけ木にめちゃくちゃお金をかけていて(笑)。もう歩いただけで分かりますからね。自宅部分からスタジオ部分に入っていくと足裏の感触からして違って。
ーーそうやって考えてみると木の使い道って音楽だけでもいろいろありますよね。
古谷 木を切る目的がいろいろある、っていうのは大事だと思うんですよね。切る側の人のモチベーションも上がるから。
ホリエ 食べるものとかだったらいま、そこがだいぶフィーチャーされてきてますよね。無農薬の野菜を作ってる人たちと料理人が繋がっている、とか。そういうのが林業でも広がっていくといいですね。
ーーよく野菜の袋に「これは私たちが作りました」って顔写真入りのシールが貼られているように。
ホリエ 「この木は僕が切りました」ってのが売ってる楽器の所に表示してあるとか(笑)。で、「この人が切った木がいいんだよなー」とかなって。
古谷 あ、それ、いいですねー。頂きかな(笑)。山でどの木を切るか、っていうのは切る人の目利きの部分もあるんで。
ホリエ これまでのギターって「〇〇が使ってる」みたいなのが売りになってた部分もあるじゃないですか? でも「〇〇が切った」っていうことがあらかじめ打ち出されていたら「あ、そうなんだ!」って思う人もいるかもしれないですよね(笑)。
(インタビュー/構成 今津 甲)
ストレイテナー https://www.straightener.net/
エレキギター(Singular)https://secca.co.jp/arttype/instrument
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