
自分たちのために森を作ってるわけじゃない
自分が現実と地続きに
ーー後藤さんは10代の頃から、環境問題にも関心があったそうですね。
後藤 科学が好きだったんです。小学校の時は学研の『科学』、中学校は『UTAN』を購読していて、そこにアスベストやゴルフ場の農薬の問題が書いてあって。雑誌があったからこそそういう情報に出会えた、という。
ーー現在、ご自分で発行している新聞『THE FUTURE TIMES』といい、文字で発信する文化がお好きなんですかね?
後藤 そうですね。歳をとるごとに読書も好きになって。
ーー文字からの情報がご自分の中でリアリティーを持つようになったのはいつ頃からですか?
後藤 自分で音楽を作るようになってからですね。ジョン・レノンや(忌野)清志郎さんのように直接社会にコミットしようとする世代よりは下で、自分たちのことで精一杯ではあったんですけどね。東日本大震災で自分が現実と地続きになって。スコップ1本持って現地に行くパンクスに同行して「行動が伴わないとダメなんだ」ってことを30過ぎて気づいたんです。
ーー行動できる場所が見つけられるかどうか、という問題もありますからねえ。
後藤 そういう意味では、古谷さんのように現地の方がいるというのはすごくありがたいですね。

ーーこちら側としては、以前からmore trees(※)に参加しているということで後藤さんに関心を持っていたんですが。(※ 音楽家 坂本龍一が創立し、建築家 隈研吾が代表を務める森林保全団体)
古谷 ATENOTEをはじめた時、田中優(環境活動家)さんのつながりでmore treesを紹介してもらったら、趣旨に賛同するミュージシャンの方々の中に後藤さんのお名前もあったので、いずれ何かの形でお会いしたい、と思ってたんです。
後藤 ようやく繋がりましたねー。
ーーmore treesで木というものにフォーカスして発見はありました?
後藤 木を植えてる若い人たちが言うんですよ。「この松は成長が早い。30年で木材になります」って。30年が早い? 時間に対する考え方が全然ちがうことに驚かされました。
古谷 楽器に使われてる木なんて、ものによっては樹齢何百年ですからね。
後藤 そういうことを知って「本当はこういう考えで働かないといけないんだなあ」って考え方に変わってきました。いま作っているスタジオ(MUSIC inn Fujieda)の「未来の世代に渡していこう」というスタンスも、木を植えてる人を見習っているところがある。自分たちのために森を作っているわけじゃない、短期の利益も生きるためには大事だけどそれだけじゃない、という。
古谷 林業でもそういう考えが強く意識されてきたのは比較的最近なんですけどね。コロナで輸入材が入って来なくなって、そこから国産材にいっそう目が向いて。
後藤 輸入材はレッドデータに入って使えなくなったものも多いですしね。僕は前に自分でヤイリ(アコースティック・ギター・メーカー)さんを取材したことがあって、そこで木材と生えてる土地の関係も知って。
古谷 能登ヒバは以前は「楽器にするなんて」って言われてたんですけどね。今の技術を使えば全然いけることが分かったんです。弾いてみます?
後藤 (様々な弾き方で慎重に試して)まず楽器として作りがしっかりしているのが分かります。あと高い音が気持ちいいので、これでもう少し柔らかい低音が出るといいですね。

ーーところで、古谷さんとはどんな出会いだったんですか?
後藤 ストレイテナーのホリエ君から連絡が来たんです。「ちょっと繋がってほしい人がいるんだけど」って。
古谷 能登ヒバのギター贈呈式が終わったあと、ホリエさんに「後藤さん、いまスタジオ作ってますよね。そこに能登材を提案したいんですけど」って伝えたんです。そしたら、その場でLINEグループ作ってくれて、僕がスタジオを出て電車に乗ったらもう返事が来た。早かったので驚きました。
後藤 ホリエくんのページを見て「いいことしてるなあ」って。正月早々あんなに大きな地震があった能登に関しては、どうにかして支援しなければと考えていたところだったので。だから古谷さんの提案はありがたかったです。ぜひ一度お会いしてなにが出来るか話してみたいと思って。
古谷 で、2024年の12月にアジカンのライヴが藤枝であって見に行きました。
後藤 ギックリ腰でしたよね?
古谷 そうなんです! バレないようにコルセットしてたんですが(笑)。
ーーそれでも町歩きをしたんですよね?
古谷 藤枝ってこんな町、っていうのを感じたかったから。で、商店街も案内してもらって「ここは宿場町で」っていう話もしてもらいました。
後藤 隣の島田市は、大きな川があるから上流から木を運んで、それを使った家具の町でもあるんです。僕の弟も家具屋で働いていたし。藤枝にも家具団地があります。

身一つから始める
ーー後藤さんには、ローカルへの眼差し、というものを感じます。
後藤 最近とくに、ローカルって大事だなと思うんです。イギリスのグラストンベリー(’70年代から続く世界最大級のフェス)ってあんなに巨大なのに、実は小さなコミュニティーの集合体なんですよね。アーティストが勝手にオブジェを作ってたりする。そういう、身1つで出来ることの能力を上げていかないと何もできないんじゃないか? って。
古谷 で、まず藤枝から。
後藤 それも縁だったんです。「インディーズが安く使えるスタジオを作りたい。静岡だったらお茶の倉庫が余ってるだろう」と思って、市の空き家対策課に配属された友達に話したら、蔵を貸してくださる藤枝江崎新聞店の江崎さんに出会って。縁ってすごい大事で、まじめにやってるとちゃんとした人に出会える。
古谷 ほんと、誰と出会うか、ですよね。引っ張られないように自分を持つことも大事だと思うけど。
後藤 自分や場に対して敏感であることも大事なんじゃないですかね? 「ここにいたらいけないな」と思ったら戻れるとか。それには自分自身を整えないといけない。僕は合気道をやってる友人が多いから、そのあたり敏感だと思うんですけどね。雑談してるときに古谷さんがビジネス・モードになるのもすぐ分かる(笑)。
古谷 あれ、そうなってます?
後藤 話を前に進めないといけない時、雰囲気が変わります。アンプで言うとプレゼンスが上がる感じで。
ーーベースでも、ミドルでも、トレブルでもなく、
後藤 音の張り出しが(笑)。悪いことじゃないですよ。それも必要だから。
古谷 見られてる(笑)。でも、バランスは大事だと思ってます。ビジネスと社会貢献。大切な社員も守りたいし、能登や林業の支援もしたいし。
後藤 そういうところに、人間味が感じられますよね。僕らはバンドをやってるから敏感なところもあって、「あ、いまこの人、ソロ弾こうとしてる」と感じたらこっちはトーンしぼる、みたいな。

ーー能登に行かれた時の話もしていただけますか?
後藤 門前に近づいて行くにしたがって海岸線の様子が変化していって、昔ながらの美しい住宅のほとんどが解体を待っているという話を聞いて胸が痛みました。「これ、ちょっと直したら住めませんか?」「基礎からズレてたら全壊あつかいです」とかね。いちばんヘコんだのは仮設住宅の狭さ。僕らがおじゃましたお宅は6畳一間に夫婦で住んでらっしゃって、自分たちが簡単に手をつっこめる場所や問題じゃないことがもどかしくて、みんなでため息をついて帰ってきました。
ーーそんな中で古材レスキューにも出会われた。
後藤 はい。熊本の震災現場に行ったときもそうだったんですけど、重要文化財とも言うべき建物の梁や木材が資源ゴミになっていく。それを保管して残そう、というのは素晴らしいですよね。これでスタジオの床でも家具でもできたら能登と藤枝の繋がりにもなる、って話してたんです。
古谷 2024年の11月、東京・八重洲の震災モニュメント・ツリーに、この古材レスキューチームとウチの会社で木材を提供したことがあるんです。でも実際に繋がれたのは今回、後藤さんと出会ったからなんですよ。
ーー能登の材でギターを、というプランも登場しました。
後藤 自分が最初のころに使っていたギターを復活させたいと思ったんです。形も近い方がファンの人たちも嬉しいと思うし。またザ・フーのステッカー貼ったりして(笑)。バンドも来年が30周年なので、そのときにこのギターが登場できればいいですね。
古谷 この話が出てから古材レスキューされた倉庫に行ったらギターにぴったりの材と出会いました。この間、それを後藤さんの紹介で奈良のEVERTONE PROJECTに届けてきました。
ーー古い民家の木がステージに戻っていく、ってすごい循環ですよね。
後藤 楽器のいいところは僕が使い終えても、また次の使い手に受け継がれていくこと。いま僕が弾いてるオールドのギターも元の持ち主がいるわけで、上手に使えば100年、200年‥。
ーーまさにサスティナブル!
後藤 そうなんです。新しいものを作るのも大事かもしれないけど、ちゃんといいもの、ずっと残るものを作っていく。能登の100年住宅から100年ギター。
古谷 名前、決まりましたね(笑)。しかも家の材になる前に100年ぐらいかけて育っているから、トータル300年。
後藤 これってめちゃくちゃ素敵なストーリーだと思います。
(インタビュー/構成 今津 甲)

ASIAN KUNG-FU GENERATION https://www.asiankung-fu.com/
Gotch https://gotch.info/
APPLE VINEGAR https://www.applevinegarmusicaward.com/
more trees https://www.more-trees.org/
後藤正文・能登材ダイアログ(当サイト内) https://atenote.com/act/projectname/gotonoto/
その他のインタビュー
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